同人誌印刷を利用する前に知っておきたい二次創作の考え方
アニメやゲーム、漫画が面白ければ面白いほど想像が掻き立てられ、ファンアートとしてこの感情を表現したいと思うのが常ですし、同人誌を頒布してでも人に見てもらいたいという思いはとても素晴らしいです。それは作品に対するリスペクトでもあると思います。しかし版権元があっての同人活動であるというのは常に忘れてはいけません。
もくじ
有名になってもファンアートにすぎない
同人活動をしているとよく見かけるのが「絵師」「字書き」という言葉です。 原作の絵やストーリーにどれだけ近いか、アニメや原作が公開されたあとにその作品が好きなファンの「エモい」気持ちにどれだけ近づけたかというので高く評価される作家も大勢います。
ところでどんなに有名な「絵師」「字書き」になって、SNSでは「神」と評されるようになっても、誰かの作品をもとに絵や字を書いている以上は人気者になってもファンアートにすぎません。 二次創作とは既にある作品を使って、ファンの手によって料理されたものです。
最近は大手通販サイトにも同人誌が売っていたり、専門の通販サイトもあります。 二次創作として料理されたものは料理をした作者に著作権がありますが、原作者が「けしからん」と思った場合は、原作者及び版権元から著作権を侵害したと訴えられることもあり得ます。二次創作は「親告罪」にあたるとされ、訴えられた場合は当然ながら同人誌の頒布はできませんし、賠償を命じられた場合はその通りにしないといけません。
版権元のファンアートに対する態度も変わってきてはいる
版権あってこそのファンアートで、版権元から黙認されているに過ぎません。 原作者によっては二次創作を嫌う人もいますし、全面的に禁止するという版権元も存在します。
原作者や版権元が作品のエゴサーチをしていることもあります。もちろん作品に対してどんな思いを抱かれているのかという調査をしていることもありますし、もしファンアートを全面的に禁止しているのであれば違反されていないかを確認しているということもあります。
とはいえ、二次創作が原作の広告塔になっているというのもまた事実です。ファンアートを禁じてしまう、嫌悪感をむき出しにするとファンが離れてしまうので「本当は嫌だが、仕方ない」と見逃しているという原作者の話も耳にします。 また二次創作を公式に許可しているジャンルもあります。
気を付けないといけないのは、公式が許可しているので何をやってもいいということではありません。二次創作を許可されたジャンルでも、例えば年齢指定のあるのは不可という決まりがあればその決まりには従わないといけません。
時代が変わっても版権元のキャラを借りているという根底
二次創作を公式(版権元)に許可されたジャンルでない限り、二次創作は「原作者及び版権元から黙認された状態」というのは忘れずに活動したほうがいいです。 同人誌だけでなくツイッターなどSNSでもファンアートはたくさん存在しますが、公式が使っているハッシュタグを使っての同人誌の広報活動は、版権元が「積極的に使っていい」と言っていない限り推奨できません。
若い人が好きなジャンル、20年近く続いていて年齢層が幅広いジャンルなどいろいろあるのと同じで、二次創作に比較的寛容なジャンルもあれば、「版権元ありき」でファンアートと版権の境界ははっきりさせておいたほうがいいという考えをもっている人が多いジャンルもあります。
二次創作は原作者及び版権元に黙認されてやっているという大前提をあることは忘れてはいけませんし、どのような傾向をもつジャンルに所属していたとしても、日本国内で活動する場合二次創作が作品の広告塔だとふんぞり返って版権元のイメージを悪くするようなことをするのはよくありません。
特に年齢指定のあるファンアートを作った場合、著作権以外にも様々な法律が絡んでくる場合があります。大前提である「二次創作は版権元のキャラクターを借りている」というのは同人活動を行う作者である以上、常に意識の根底にあったほうがいいです。
奥付には作者の立場を明確にする大事な役割がある
同人誌を出すときに奥付を付けると思いますが、奥付はとても大事です。いつ作ったのかはもちろん、この同人誌の責任は自分が取りますという意思表示でもあります。奥付の有無に法的な義務ではありませんが、奥付の明示されていないものは、行政から責任を取れない何かがある、最初から自分の頒布物に責任を取る気が無いと判断されかねません。
そして「この同人誌は版権元と一切関係がありません」「ファンの間で楽しむために作られたもの」という意思表示を見せる姿勢も頒布する立場としては大切だからです。 オークションやフリマアプリで同人誌を売るのはタブーですし、無断転載も絶対にやってはいけないことです。
というのも同人誌の中には年齢指定のあるものもあります。18禁は18歳未満の年齢の方には見せてはいけない描写が含まれているので18禁ということにされているわけです。 もしそれを18歳未満の方が見られるようになってしまうとどうなるのかというと、頒布している作者に責任を問われる可能性が高くなります。
イベントもしくは自分の通販サイトでしか頒布していないはずの同人誌が、ネットオークションやフリマアプリによって不特定多数に売られていて、中には18歳未満の人の手にも渡っていたとなると考えただけでも恐ろしいです。東京都の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では、青少年に閲覧させないための包装や陳列が求められており、それをしないのが常態化すると罰金を科されることにもなります。
二大タブー「パクリとトレース」
トレース素材として頒布されているならともかく、トレース素材で頒布されていないものをトレースして頒布するのはよくありません。 例えばある漫画の絵が特徴的でおもしろいので、自分の同人誌でもパロディでトレースして同人誌で頒布するというのはアウトだということです。
これは他人の著作権を侵害して自分の著作物を作っているというのと同じということです。もちろんトレース素材としてネット上にあるものや書籍になっているものも「同人誌に使うのは不可」と書いてあればその明記の通りにしないといけませんし、分からない場合は問い合わせたほうがいいです。
そしてファンアートをしていてよくあるのが、意図せず偶然同じテーマで作ってしまうということです。これを「パクリ」といって揶揄をする人もいるかもしれません。ナイーブな部分でもあるのですが、ストーリーの成り行き上、一部誰かと同じ話の流れに偶然になってしまったとなっても話の大部分が違えば著作権の侵害とは言えませんし、「パクリ」と言い切ることも難しいです。
この頒布物の全責任は自分がとる
同人誌を請け負う印刷業者は増えていますが、気を付けないといけないのはすべての業者が対応しているわけではありません。また対応している印刷所が年齢指定のあるものも印刷に対応しているとは限らないので、きちんと事前に確認をしましょう。
印刷所も一緒に原稿の不備を確認してくれることもありますが、基本的には頒布物を出す作者が全責任を負う必要があります。趣味で作っているファンアートであるとはいえ、何か著作物を発行してしまう以上は法律と無縁ではいられません。
これはファンアートを止めるべきであるということを言っているのではなく、二次創作は間違いなくビジネスを生み出しているといっても過言ではありません。ファンでやっていることだから法律は関係ないという姿勢ではなく、ファンアートを生み出して見てもらいたい以上は法律の知識を身につけておいた方がいいこと、法律は自分を罰するためだけでなく自分を守るためにも存在しているということを忘れないでください。
これは頒布する作者だけでなく、ファンアートを手に取る人も身につけておきたい姿勢でもあると思います。
二次創作に少しずつ寛容になっているジャンルがあることも事実ではあります。しかし版権元のお目こぼしがある状態でやっているということは、常にファンアートとして絵や小説を生み出すうえで意識をしておいたほうがいいでしょう。またそれは作者だけが意識をすればいい問題ではなく、ファンアートをこれからも見たいと思うのであれば、それを支援する人も一緒に意識したほうがいい問題でもあります。