同人誌にも使える!エンボス加工とは
同人誌は時間やお金をかければどこまでもこだわった一冊を作ることができます。同人誌印刷所によっては、制作者のニーズに合わせてさまざまなオプション加工が用意されています。その中のエンボス加工とは紙に熱を加えて、文字や絵柄を浮き上がらせて立体的に見せる表現です。今回は、そんなエンボス加工の特徴や効果をお話します。
エンボス加工をすると高級感のある一冊になる
エンボスによる加工では、紙を裏側から押し出して表の図柄を浮き上がらせます。実際に触ってみても浮き上がっていることがわかるので、こだわって制作していることが読み手に伝わります。また、加工をするにはある程度の紙の厚みが必要となるため、必然的にエンボスを施された表紙は厚みのあるものとなります。
立体的な演出と厚みのある紙で、高級感ある一冊に仕上げることができます。浮き上がらせる部分に色を付けるのを「箔押し」といいます。色を付けずに空押しして凹凸のみつけるのがエンボス加工ということになります。凹凸のみで見せるという演出の場合、ロゴやエンブレムに使うとおしゃれになります。
さらに、箔押し加工と併用すれば高級感を高めることができます。箔押しでは、通常の色の他に「金」「銀」「メタリック」などのキラキラしたゴージャスな色を選択できます。箔押しはタイトルに使うのにも適しています。本は表面が平らなものがほとんどですので、立体的であることはそれだけで個性的に感じられるでしょう。
思わず触りたくなり、触ればその特別な質感に引き寄せられる、そんな本になります。業者によっては細かいデザインも対応可能なので、幅の広い演出をすることが可能です。本全体に花びらのような細かい柄を、凹凸を付けて散らせば華やかになります。
ただし、基本的には細かいものや広範囲の加工には適していないので、取り扱ってくれる業者か、予算が足りるかなどをあらかじめ調べておく必要があります。印刷ではなくあえてエンボスの凹凸のみで表現することによって、まるで昔の西洋貴族が読む本のような格式を持たせることができます。さりげない表現で押しつけがましくないところが、大人っぽい格調となります。
特殊加工の中でも、さらに「特別感」「高級感」「希少性」を持たせるのにエンボスは最適です。また、イラストの手前に描かれているもののみを浮き上がらせることで、絵の奥行きを立体的に表現することができます。このように、イラストの内容を際立たせるために活用するという方法あります。
発想によってどこまでも可能性を広げることができるのがこの加工方法の魅力です。活字の内容だけではなく、表紙や裏表紙、中の紙や文字、それらトータルで世界観を作れるのが本の魅力です。そういった本の文化をより豊かにするのに、エンボスの存在は一役買っています。
エンボスによる加工と相性のよい紙や演出方法
エンボスによる加工と組み合わせてより面白い演出のできる紙として「パチカ」があります。「パチカ」は過熱型押しした部分が透明になる特殊な紙です。エンボスによる加工では加熱した型を押すことで陰影を作るので、「パチカ」の特徴を生かすことができるのです。凹凸がよりわかりやすくなるので、エンボスの演出をはっきりと一目で伝える役に立ちます。
また、インクを使わずに陰影だけで見せる場合、紙の質感をより伝えやすいのがエンボスの特徴の一つです。表面にざらつきのある和風テイストの紙などと組み合わせれば見栄えがします。実際に触っても手触りが違うので印象の強い一冊となります。また、エンボスを活かすには、薄い紙よりも厚い紙のほうが適しています。より厚い紙を使うことで、凹凸がしっかりとついて、美しい陰影にすることができます。
エンボスで加工をしたい場合には、紙の厚みにもこだわりながら作るとよいでしょう。反対に、こしのない紙や薄い紙は適していません。「こしがある」「厚みがある」「ざらつきのある」紙がエンボスによる加工には向いています。
また、実際には加熱と型押しを加えず、厚みだけを演出する「疑似エンボス加工」が存在します。疑似エンボスでは、紙の表面に二種類のニスを塗ることにより、紙そのものには凹凸を付けずに、その表面にのみ盛り上がりを付ける加工技術です。
実際のエンボスよりも細かい模様も表現することができます。また、薄い紙でも加工を施すことが可能です。陰影や盛り上がりは控えめですが、ツヤツヤとして通常のエンボスとはまた違った趣があります。それぞれ、好みや目指す演出の方向性で選択をしましょう。
また、自分で図柄を指定するのではなく、紙自体にすでにエンボスによる加工が施されたものもあります。紙の一部や全体に模様が入っているものです。そういった特殊な紙は、記念的な冊子など特別な一冊を作るのに最適です。
エンボス加工には偽造防止などの実用的な効果もある
また、エンボス加工には実用的な効果もあります。通常の本ですと、コピー機に挟むなどして安易に偽造した本や海賊版を出すことができてしまいます。しかし、エンボス加工はコピー機でコピーすることはできません。新たにエンボス加工の本を作るにしても、費用がかかりハードルが上がります。
利益目的での海賊版製作の場合、費用がかかるならそれだけで諦めさせることが可能です。安易に無断コピーや模造作品を作られないようにするするという意味でもエンボス加工は役に立つのです。また、特殊な加工をしている分、同人誌としても高値になりがちです。
エンボス加工をするにはそのための版を作る必要があります。専用の版を作るので、どうしても料金は高くなってしまうのです。一見、高値になってしまうというのはマイナスな要素にとらえてしまいがちですが、高い価格を付けることで「高級感がある」というだけではなく、実際に「高級な」一品になります。
購入者側も当然、高いお金で買うことになります。安く手に入れたものではない分、大切にしてもらえる可能性も高くなります。読み捨てされず、いつまでも本棚に置いておいてほしい一冊にするには、「本棚に置いておきたい」と思わせる一品である必要があるのです。
名実ともに高級な一品にすることで、愛着を持ってもらえることになります。見栄えがするので、インテリアとしての一面も持たせることができます。暗がりの中や、手元が見えない状況で本を探している場合に、凹凸があるので見つけてもらいやすいです。見た目や手触りが特別というだけではなく、実用的にも効果を発揮するのがエンボス加工です。
このように、エンボスによる加工には演出面・実用面、両方に活用できる効果があるのです。「高級感を出したい」「他と違う一冊を作りたい」「個性を出したい」「コピー本を作られるのを防ぎたい」「本棚からすぐに見つけられる手触りにしたい」など。さまざまな要望にエンボス加工は応えてくれます。作る側にとっては自分の作品の魅力を最大限に伝える手助けとなります。
手間暇をかけられる同人印刷だからこそできる演出で、世界でたった一つの特別な本を作りましょう。また、買い手にとっても、「よい本を手に入れた」という満足感につながります。内容だけではなく、装丁の面でも、いつまでも心に残る一冊にできるのです。特別な装丁は、電子書籍ではなく実物の本を買う醍醐味の一つです。立体感や手触りという、実物だからこその演出があるエンボスは、まさにこの醍醐味を満たすのに最適な加工方法と言えます。